木村峻郎弁護士講義「不動産売却による保証債務の履行と非課税」

木村峻郎弁護士講義
「不動産売却による保証債務の履行と非課税」

◎保証人が譲渡所得につき、非課税の適用を受けるためには、会社を清算してしまうことが必要!

著 アイランド新宿法律事務所 弁護士 木村峻郎

木村峻郎弁護士が厳選した【不動産売却による保証債務の履行と非課税】について

◎〈事案〉
乙会社が甲銀行から融資を受け、乙会社のA代表取締役は連帯保証債務を負担した。その後、乙会社は資金繰りに窮し、毎月の売上金を甲銀行への返済資金として使用してしまうと「商品の仕入れが出来ず、商売が成り立たないことになってしまう状況」に陥った。そこで、Aは乙会社の信用維持のため自宅不動産を売却し、その代金で甲銀行に弁済をすることを考えている。この場合、Aの譲渡所得税が非課税になるためにはどの様な配慮をしたらよいか。

解説 Part1
第1【所得税法64条2項】
1)<課税の取扱い>
保証債務の履行のために資産を譲渡した場合、所得税法64条2項は「譲渡所得を非課税」と規定する。

2)<趣旨> 
保証人の実質的な担税力が喪失するのにも拘わらず、なお譲渡所得税の支払義務を課すことは公平に反する。

3)<勝訴要件>
①保証人が保証債務を履行するために資産を譲渡したこと。
②債務者が無資力であり、求償権が行使不能であること。
③申告手続の遵守。
④主たる債務者が既に債務を弁済することができない状態であるにも拘わらず、保証をした場合ではないこと。

第2【勝訴要件の説明】
⇒非課税扱いにならないケースが圧倒的。
1.〔判例の傾向〕
1)特例の厳格な適用
2)証明責任=保証人に負担させる

2.「保証債務の履行のための譲渡」
イ)〈事例1〉
保証人Aが土地を譲渡した代金をもって乙会社に提供したにも拘わらず、以下の事情があるときは「保証人Aの乙会社に対する単なる貸付」であり、当該譲渡は保証債務の履行のためのものとは認められない。
<理由>
①保証人Aの弁済は期限前に行われていたこと。
②甲銀行から保証人Aに対し「保証債務の履行の請求は為されていない」こと。
③甲銀行の経理処理は「乙会社から返済を受けたものと処理し、保証人Aから返済を受けたという取扱をしていない」こと。

〈事例2〉
乙会社の債務を返済するために、保証人Aが土地の譲渡代金を乙会社に運転資金として貸し付け、乙会社が当該資金をもって甲銀行に対する債務を弁済した場合において、以下の如き事情がある場合には、資産の譲渡所得につき、所得税法第64条第2項に規定は適用されない。

[1]Aが会社に対して甲銀行に対する弁済額を超える資金を提供している。
[2]乙会社はAより提供を受けた資金で、甲銀行に対する支払の他、人件費、役員給与等の支払にも充てていたこと
[3]甲銀行からAに対して「保証債務の履行の請求」がなかったこと

<事例3>
保証人Aが甲銀行に対する保証債務の履行をB銀行からの借入れで行なった。そして、その後資産を譲渡した後にC銀行から借入れを行ってB銀行に対する借入金を返済した上、本件資産の譲渡代金でC銀行に対する借入金を返済しても、所得税法第64条第2項の適用がない

所得税法第64条第2項の規定が適用されるためには、Aの資産の譲渡と保証債務の履行との間に「強い因果関係」が必要である。保証債務の履行と資産の譲渡とが、たまたま時期を同じくして行われたとしても、保証債務の履行が保証人Aの譲渡代金以外の資金、信用によって行われたときは、所得税法第64条2項の適用はない。

<事例4>
甲銀行からの借入名義は代表者A個人である場合、その実質が乙会社の債務であり、Aの資産譲渡代金により甲銀行に弁済をしても、それはAが「自己の債務を弁済したものであって、保証債務の弁済ではない。」そこで、保証債務を履行するために資産を譲渡したという所得税法第64条2項の要件を充足していない。

第3【求償権の行使不能の認定】
Aが保証債務の履行に係る乙会社に対する求償権を放棄しても、以下の事情がある場合には、主たる債務者の債務超過に基づくものとは認められないため、所得税法第64条第2項の適用は無い。

[1]乙会社が現在も事業を継続していること
[2]直近の事業年度の決算では僅少でも毎期純利益を計上し、繰越欠損金は減少している。
[3]乙会社の有する「不良債権であるという売掛金も回収不能である」と認めるに足る証拠はないこと
[4]A以外の者からの借入金は、返済、借入れを繰り返しながら全体に減少し、Aが乙会社に対する求償権を放棄した事業年度においても乙会社は借入金を返済していること

第4【申告手続】
1 確定申告書等に所得税法第64条第2項の適用を受ける旨の記載が必要である。そこで申立書にその記載がないときは所得税法第64条第2項による非課税の取扱を受けることが出来ない(所得税法64条3項)。

② 所得税法第64条第2項は、保証債務を履行するために資産を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなった場合において、

[1]求償権を行使することができなくなった事実が確定申告前に生じている時には、確定申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載がある場合
[2]その事実が確定申告後に生じた時には、当該事実が生じた日から2月以内に、当該事実が生じた日を記載した更正の請求書により更正の請求をする場合
に適用を受けることができる(所得税法64条3項、152条)。

第5【コメント】
①所得税法第64条第2項は「会社が存続して営業を継続する」場合には、適用が認められない傾向にある。

②そこで、保証人が資産売却して会社の債務を返済するときは「会社を事実上倒産させ、新会社を設立して、新会社に事業承継させる等の方法を採る」ことも検討してみる価値がある。

第6 訴訟のポイント
 1 条文の要件の意味内容を把握し、それに沿う事実の主張・立証 の成否が、勝敗のポイント!

◎<例>
【不動産売却による保証債務の履行と非課税】
〈事案〉
Y会社はX銀行から融資を受け、代表取締役Aが連帯保証債務を負担した。しかしその後会社は資金繰りに窮したため、Aは自宅不動産を売却し、その代金で銀行に弁済をすることを考えている。この場合、自宅不動産の売却によるAの譲渡所得が非課税になるための該当条文とその要件は何か。

◎1)<条文>
所得税法64条2項

◎2)<要件=証拠により証明を要する事実>
①保証人が保証債務を履行するために資産を譲渡したこと。
②債務者が無資力であり、求償権が行使不能であること。
③申告手続の遵守。
④主たる債務者が既に債務を弁済することができない状態であるにも拘わらず、保証をした場合ではないこと。
etc

2<各要件の意味内容>
【要件解釈における判例の一般的な傾向】
  1)所得税法64条2項が「国の恩情から設けられた特例」であるため、各要件を厳格に解釈適用している。
    2)証明責任=保証人に負担させる。

要件に該当しないため非課税扱いにならないケースが多数。

3<保証債務の履行のための譲渡」という要件の検討>
【判例上特例が適用されなかった具体例】
1)裁判所は保証人Aが土地を譲渡した代金を会社に交付し、会社がその金銭で債務の弁済をしても、それは「保証人Aの会社に対する単なる貸付」であり、当該不動産の譲渡は保証債務の履行のために為されたものとは認められないと判断した。
<判例の理由>
①銀行から保証人Aに対し「保証債務の履行の請求が為されていない」こと。
②銀行の経理処理は「会社から返済を受けたものと処理し、保証人Aから返済を受けたという取扱をしていない」こと。

※この判例に従えば、保証人が
①銀行からの請求を受けること
②保証人の名義で返済すること
が必要である。ちなみに銀行は保証人に対し、口頭で返済を促すことがあっても「期限の利益を失わせる」という最終段階に至らなければ、保証人に対し催告書面を送付しない。

※②保証人の名義で返済すること
保証人が調達した金銭でも、債務者名義の銀行預金口座に入金させ、その口座から返済金を引き落とすため、返済者は保証人ではなく債務者ということになる。

4<求償権の行使が不能であること>
保証債務を履行した後「保証人Aが取得した、会社に対する求償権を放棄」しても、以下の事情がある場合には、主たる債務者の債務超過に基づくものとは認められない。そのため、所得税法64条2項の適用は無い。

[1]会社が現在も事業を継続している事実
[2]会社が第三者に対して負担する債務の返済を行なっている場合は、保証人Aの「求償権の行使が不可能」とは言えない。

以上

アイランド新宿法律事務所