木村峻郎弁護士講義「遺産を巡るトラブル処理⑴,遺産をめぐるトラブル処理,遺留分減殺請求権」

木村峻郎弁護士講義
「遺産を巡るトラブル処理⑴,遺産をめぐるトラブル処理,遺留分減殺請求権」

お時間があるときに、木村峻郎弁護士が作成した<相続に関する設問>を解いてみませんか?(次回に続きます。)

著 木村峻郎

木村峻郎 講義 遺産を巡るトラブル処理について

第1 遺留分とは?

【事例1】親族関係図
    1.遺留分 = 遺言で相続人Cに遺産の全てを相続させると規定しても、相続人Dの請求があれば「CはDにも一定割合の遺産を取得させなければならない」Dの権利。

2.遺留分の割合=㋑自己の法定相続分の2分の1(民法1028条2号)
㋺但し、直系尊属だけが相続人になる場合:遺産総額の3分の1(民法1028条1号)
         ※「兄弟姉妹には遺留分はない」ことに留意。

3.事例1のケース
Aが「遺産の全部をCに相続させる」旨の公正証書遺言を作成した。この場合、法定相続人Bは法定相続分2分の1の半分(従って遺産の4分の1)は自分が相続したものと主張し、各遺産に対してそれぞれ4分の1の権利を有することを主張することができる。

問 試しに解いてみませんか?正しいものは○を、誤りは×を記載して下さい。
 1(  )Bの遺留分は、遺産総額の4分の1である。
 2(  )Dの遺留分は、遺産総額の4分の1である。
 3(  )仮にCとDが既に死亡していて、しかもCとDには子がいないときには、BとXが2分の1の割合でそれぞれ相続する。
 4(  )弟Zの遺留分は法定相続分の2分の1である。
  

第2 遺留分の計算

1.遺産を時価評価して遺産総額を確定し、遺留分額を計算する。なお、不動産等の時価について争いがあれば裁判所が選任した鑑定人の鑑定に従う。(この場合、鑑定人の鑑定費用が著しく高額になる上、鑑定人の評価も不正確なものであることが少なくない。)

2.ちなみに相続税を申告する場合、土地は路線価で評価する。

第3 遺留分を侵害された者が行う「遺留分減殺請求権」

1.遺留分減殺請求権とは、各遺産につき「自己が遺産につき遺留分額の権利を取得する」という意思表示

2.遺留分減殺請求権の行使期間
  遺留分を侵害された者はその事実を知ったときから1年以内に減殺請求権を行使しなければならない。仮に1年間を経過してしまうと遺留分減殺請求権は行使できなくなる。

3.方法
遺留分権利者Dが、遺留分を侵害している他の相続人Cに対して遺留分減殺請求権を行使する旨を通知する方法による。この場合、口頭の通知でも足りるが、後日の紛争を防止するためには内容証明郵便をもって通知する必要がある。

4.遺留分減殺請求権を行使した場合の法的処理
 前記の事例1において、被相続人Aが「全財産をCに相続させる」旨の遺言をした場合、BとDが遺留分減殺請求権を行使すると、各遺産(例:土地や株式等の遺産のそれぞれ)についても、妻Bは4分の1、次男Dは8分の1の権利を有し、長男Cを含めた3人で各財産を共有することになる。
  なお、B・Dとの共有名義の登記が為されてしまうと、Cは当該不動産の売却が著しく困難になる。
※ 株式の取扱い
相続人の中から代表者を定めて、その代表者が議決権を行使する。ただし協議が整わない場合、近時の会社法の改正で、甲会社側からCが相続人の代表者として議決権を行使することを認めることが可能となった(会社法106条ただし書)。

第4 他の相続人(BとD)より遺留分減殺請求権を行使された相続人(C)の対応の仕方

【事例2】 
1)被相続人Aの相続人は妻B、長男Cと次男Dの2人である。Aは東京都内にある自宅土地建物の他、軽井沢、京都及び北海道にそれぞれ土地を有し(各1億円)、土地や預金等を合わせると合計約5億円の遺産を遺して他界した。
2)しかし、Aは「全財産は長男Cに相続させる」旨の遺言をしていたことからCはDから遺留分減殺請求権を行使された。
3)なお、Cは納税資金を調達するため、相続した軽井沢と京都の土地を早急に他に売却することを検討している。この場合、Cはどのような対応をすればよいか。

《CがDとの交渉を有利にするためのポイント》

(1)Cは相続した全部の土地につき、遺言書に基づき速やかに「自己名義の単独登記」を行う。
※Dが遺言書の存在を無視して「法定相続分による相続登記手続」(Dが4分の1の共有持分を有する旨の登記)を行うことがある。その場合Cは登記をCの単独所有にするよう裁判で争わなければならず、勝訴するまで1~2年はかかるため、相続税を支払うため土地を売却することができなくなってしまう。そのため、Cは自己名義の単独登記を可能な限り早期に行う必要がある。

※逆に、クライアントが遺留分を侵害されたDの立場にある場合には、どの様に対応したら良いか。

(2)遺留分減殺請求権を行使したDは、相続した各不動産や各預金毎にそれぞれ「8分の1」の共有持分権を有している。そこでCは、自宅建物の敷地(1億円)について存在するDの遺留分減殺請求権を消滅させるため、敷地の遺留分相当額(8分の1=1250万円)をDに支払い、仮にDが受領を拒絶すれば供託をする。⇒その後の裁判は「金額が適正であるか否か」という点が争いの中心となる。

※仮に、クライアントがDの立場にある場合には、どの様に対応したら良いか。

参照条文
民法第1041条(遺留分権利者に対する価額による弁償)
受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。

第5 生前の相続:遺留分の放棄(推定相続人による遺留分放棄と家庭裁判所の許可)

【事例3】 
1)80歳になるAには妻B、長男Cと次男Dの3名の推定相続人がいる。
2)Aは自宅不動産等約5億円の財産を有しているが、Aは生前に次男Dに対して1千万円を支払って遺留分を放棄させ、遺言で残りの財産を全て長男Cに相続させたいと考えている。この場合、Aはどの様な対応をしたら良いか。

※ 参照条文
民法第1043条(遺留分の放棄)
    相続の開始前における「遺留分の放棄」は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
  2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

1.《実務の運用例》
《結論》
Aが「長男Cに全財産を相続させる必要から、次男Dに遺留分を事前に放棄させる」場合、家庭裁判所の許可が必要となるが、その許可を得ることは実際上、困難な場合が多い。
《理由》
遺留分の事前放棄に家庭裁判所の許可を必要とした民法の趣旨は、遺留分の放棄を当事者の自由に委ねると、被相続人その他の利害関係人が遺留分を持つ相続人に対し圧力を加えて遺留分を放棄させるなど、不当な結果を生ずるおそれがあることに基づく。そこで、AがDに遺留分の放棄を強要することを防止する必要から、裁判所は遺留分の放棄を安易に認めない。

その2 演習へ

以上

アイランド新宿法律事務所